No.201 開業届と青色申告 届けを出すだけで、帳簿の付け方しだいで最大65万円(令和9年分からは75万円)の控除が付く
自宅で事業を始めたら、税務署に開業届と青色申告承認申請書を出す。青色申告で複式簿記の帳簿を付け、期限内に申告すると所得から最大65万円が差し引かれる。令和9年分からは e-Tax が65万円の前提になり、紙の申告は最高10万円に下がる。
本文と出典
あらまし
個人で事業を始めると、税務署に出す書類が二つある。事業を始めたことを知らせる「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)と、帳簿をきちんと付ける代わりに税の特典を受けるための「所得税の青色申告承認申請書」である。どちらも手数料はかからず、e-Tax(国税庁のネット申告)でも紙でも出せる。2026年10月時点で国税庁の案内を確かめた内容をまとめる。
どんな仕事か
この記事は特定の仕事ではなく、Kindle出版、ネット販売、在宅の受託など、どの仕事にも共通する「税務署への最初の手続き」を扱う。対象は事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業を始めた人である。会社員の小遣い稼ぎ程度の副業は事業所得ではなく雑所得になることが多く(id 202 で扱う)、その場合は開業届も青色申告も関係しない。
手続き
・1. 開業届を出す。国税庁の手続き案内では、提出時期は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」となっている(2026年10月時点の表記。以前の手引きや解説記事には「開業から1か月以内」と書かれたものが多いので、古い情報と混同しない)。提出先は住所地などの納税地を受け持つ税務署で、e-Tax なら本人確認書類の添付は要らない。
・2. 青色申告承認申請書を出す。期限は、青色申告をしたい年の3月15日まで。1月16日以後に新しく事業を始めた場合は、開業日から2か月以内である。この期限を過ぎると、その年は白色申告になる。
・3. 帳簿を付ける。青色申告は、年末に貸借対照表と損益計算書を作れる正規の簿記(一般には複式簿記)が原則だが、現金出納帳や経費帳などの簡易な帳簿でもよいとされている。ただし簡易な帳簿では控除は最高10万円にとどまる。
・4. 翌年3月15日までに確定申告をする。青色申告決算書(貸借対照表を含む)を付けて、期限内に出す。
税務署の窓口は、2026年10月1日から全署で受付が原則午前9時から午後3時までになった。
数字と計算の例
青色申告特別控除は、帳簿の付け方と申告の方法で額が変わる。令和8年分(2027年3月に申告する分)までは次のとおりである。複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を付けて期限内に申告すれば最高55万円。そのうえで e-Tax で申告するか、仕訳帳と総勘定元帳を「優良な電子帳簿」として保存して届出を出せば最高65万円。どちらにも当たらない青色申告者は最高10万円である。
令和8年度の税制改正で、令和9年分(2028年に申告する分)から仕組みが変わる。国税庁が2026年8月に出したリーフレットによると、65万円を受けるには複式簿記に加えて e-Tax で期限内に送ることが必須になり、紙で申告した場合の上限は10万円に下がる。65万円の要件に加えて「優良な電子帳簿の保存」か「デジタルシームレス保存」(決済データやデジタルインボイスを決まったシステムで受け取り、保存するやり方)をすると最高75万円になる。また、簡易な帳簿の人で、前々年の事業の収入が1,000万円を超える場合は10万円控除も使えなくなる。
控除の効き方を数字で示すと、事業の売上から経費を引いた所得が100万円なら、65万円の控除で課税の対象は35万円になる(このあと基礎控除などの所得控除がさらに引かれる)。
青色申告と白色申告の違い
青色申告の特典は控除だけではない。国税庁の説明では、生計を一にする15歳以上の家族に払った給与を、届け出た範囲で経費にできる(青色事業専従者給与)。白色申告では家族への給与は経費にならず、代わりに配偶者は最高86万円、その他の親族は最高50万円の事業専従者控除がある。赤字の年は、青色申告なら控除しきれない損失を翌年以後3年間繰り越せる。帳簿と書類は原則7年間(請求書や納品書などは5年間)保存する。
向く人・向かない人
毎年まとまった売上が見込め、パソコンで会計ソフトを使える人には青色申告の得が大きい。会計ソフトは仕訳から決算書、e-Tax 送信まで画面の案内でできるものが多く、シニアでも慣れれば一人で回せる。反対に、年に数万円の売上しかない人や、帳簿付けが負担な人は、控除の恩恵より手間が上回ることがある。紙の申告を続けたい人は、令和9年分から控除が大きく減る点を知っておく必要がある。
落とし穴
開業届を出しても、それだけで青色申告にはならない。承認申請書の期限(3月15日、または開業から2か月以内)を過ぎるとその年は白色になる。65万円は「期限内の申告」が条件で、1日でも遅れると10万円に下がる。還付になる申告でも同じである。個別の判断は税務署か税理士に聞く。
くらさんの考察
令和9年分からの見直しは、紙の申告を続ける人に不利で、e-Tax と会計ソフトを使う人に有利な方向である。72歳で新しく始める場合も、最初から e-Tax と会計ソフトで帳簿を付ける形にしておけば、制度が変わっても慌てずに済むと考えられる。開業届の期限表記が「確定申告期限まで」になっている点は、古い解説記事との食い違いが生じやすいので、手続きの前に国税庁の案内ページを一度開いて確かめるのが確実である。
ジージへの問いかけ
・ジージの場合、まず開業届を出して青色申告にするほどの売上が見込めるでしょうか、それとも雑所得として様子を見るのがよいと思いますか。
・会計ソフトと e-Tax で確定申告をすることに、どのくらいの不安がありますか。
・75万円の控除を受けるための「優良な電子帳簿」の手間は、控除の10万円の差に見合うと思いますか。
出典
・国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
・国税庁 タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2090.htm
・国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm
・国税庁 リーフレット「75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!」(令和8年8月) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026007-003_02.pdf
・国税庁 タックスアンサー No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが仕事QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。